開業を考えるときの最初のプロセスは立地の選定。 「どこで開業するか」は最も重要な位置づけといっても過言ではないでしょう。 開業地を選定するうえで、診療圏調査を実施することは、切っても切り離せない項目となってきています。
そこで、診療圏調査とは何なのか、診療圏調査から得られるレポートと実際に物件を探す時のポイントをご紹介いたします。
「診療圏調査」とは、クリニックを開業した場合、1日にどれくらいの外来患者が見込まれるのか(推定患者数)、競合する診療科はどこにあるのか、などを総合的に判断する調査のことです。
推定患者数の数値が高ければ、開業する診療科へのニーズが高いことになり、低ければ人口に対しての医療機関が満たされていると判断できるでしょう。
診療圏調査を実施するためには、診療圏の設定が必要となります。
診療圏とは、クリニックを開業すると、どの範囲から患者が来院するかということです。 診療圏の設定方法は、同心円の距離(半径1〜1.5km)又は車による到達時間の2通りがあります。
また、地域には地域特有の生活動線が存在します。 公共交通機関の利便性からの通勤・通学ルート、商業施設渋滞が発生するから迂回する、など様々です。
この生活動線が患者の来院範囲に大きく影響を受けることも、可能性として把握する必要があります。
診療圏調査はWebやスマートフォンのアプリで無料で実施できます。 勤務医で多忙の中では、開業を志しても診療圏調査を自ら行うことさえ難しいかもしれません。
コンサルティング会社や医療機器メーカーなどでも調査することが可能です。 事業計画から開業後の経営に至るまでサポートを依頼することもできるでしょう。
診療圏調査を実施した場合、以下のような内容を確認しておきましょう。
夜間人口と昼間人口の違い
診療圏調査の人口は、国勢調査の人口を用いて算出するのが一般的ですが、国勢調査の人口は夜間人口です。地域には地域特有の生活動線が存在し、昼間と夜間とでは活動する拠点が居住地と異なることは珍しいケースではないでしょう。
都心部などの就業地では昼間の人口は夜間の人口に比べて多くなり、住宅地では夜間の人口の方が多くなる、といった地域特性を把握しておく必要があります。
昼夜の来院患者予測
診療圏調査を実施している事業者によっては、昼夜の来院予測を行っている事業者もあります。夜間人口を用いて算出する診療圏調査ですが、昼間人口が大きい就業地などでは、昼間人口を用いて算出することが推奨されています。
競合強度
診療圏調査では、診療圏内の患者数を競合診療科で均等に割り振り、推定患者数の予測を算出します。最新の医療設備を整えていたり、ドクターの評判がよかったりすると、集患力の強いクリニックとなるなど、現実では均等に割り振るだけでは計れない指標があります。
そこで重要となるのが「競合強度」で、競合ごとに設定した強度に応じた比率で割り振ることで、診療圏調査はより正確なものとなるでしょう。競合強度には、医療機器やドクターの評判のほかにも、駐車場の有無や診療時間なども含まれます。
診療圏内人口や競合の総患者数
実施した診療圏調査の内容がよくない場合でも、レポートの内容だけでは判断できないことがあります。
競合クリニックに対して、不満を抱えたまま通院している可能性がないとは言えません。 診療圏調査のレポートの内容だけでなく、実際に診療圏の住人の声を聞くなど調査してみましょう。
人口世帯特性
診療圏によって、年代や世帯構成が異なることがあります。 開業後の集患を確実なものにするためには、ターゲット層の選定やクリニックのコンセプトが重要となります。
そこで活用できるのが「人口世帯特性」です。 年代や世帯構成によって、クリニックに求められるニーズは異なります。ニーズに合致したコンセプト設計を行うことが集患への一歩となるでしょう。
開業の形態の多くは、ビルテナントや医療モールといった賃貸物件です。 これは新築開業する時に比べて、初期費用が安価といったメリットが挙げられます。間取りやデザインまでを自身の思い通りにできにくい半面、建物や設備に不具合が生じた場合の対策が講じやすいとも言えます。
物件の過去情報からも集患における情報を得られるメリットもあるでしょう。 医療用テナントであれば、開業により適した設備が整っているかもしれません。
また、よほどの都心部でない限り、駐車場の有無は集患力へ影響してきます。 駅からのアクセスがよい立地で、診療圏調査を実施しても、実際に現地に行って見なければ分からないこともあるので要注意です。
診療圏調査で開業したい候補地が見つかり、次に行うステップは物件探しです。 開業する診療科や形態によって、実際に物件を確認する時は以下のような点に気をつけて判断しましょう。
交通機関からのアクセス
最寄り駅からの距離やその道のりが使いやすいか、歩行者が安全に歩けるか。
駐車場の有無
物件の周辺に駐車場はあるか、または確保できるか。駐車場への道路は分かりやすいか。
建物の構造
ビルの場合は、エレベーターの有無、看板など目につきやすいか。夜間照明の有無、安心して来院できるか。
天井までの高さ
レントゲンなどの医療機器を搬入・メンテナンスできるか。
天井裏と床下
空調や照明を天井裏に設置できるか、トイレや水回りの給排水の設置ができるかどうか。
床荷重
医療機器の設置に耐えうる構造か、レントゲンやウォーターベットは設置できるか。
電源
診療科に必要な電源が確保できるか、単相200Vが使用できるかどうか。
診療圏調査は、開業するにあたっての最初のプロセスです。 物件探しは、クリニックやドクターの将来をも左右する重要なファクターとなるため、診療圏調査のレポートは、クリニックのコンセプトに合致した物件探しの道しるべとなります。 開業において診療圏調査は必須となりますので、医療物件に特化した不動産屋にご相談してみてはいかがでしょうか。
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