厚生労働省の「医師・歯科医師・薬剤師統計」によると、診療所では平均年齢が60.2歳で、病院(医育機関附属の病院含む)と比較して15歳以上の差があります。 また、診療所における年齢の構成割合の半数が、60歳代、70歳代と高齢化しているという中、医療機関の事業承継が重要になってくるといえるでしょう。
中には、承継する準備の前に、急に相続が発生してしまった、ということも考えられます。そのため、相続税対策は、計画的に進める必要があります。 今回は、開業医の相続税対策について解説していきます。
開業医でも、個人と医療法人に分かれますので、それぞれで確認していきます。
個人開業医の場合、相続発生時に巨額な相続税が発生する可能性があります。相続税の対象は、自己資産に加え、医院やクリニックの資産に対しても相続税が課せられるためです。 医院やクリニックの土地・建物・医療機器・車両・診療報酬の未受領分・医薬品など、全てが相続対象に含まれます。
医療法人では、「出資持分あり」と「出資持分なし」で相続対策が変わります。平成19(2007)年4月1日以降に設立された医療法人はすべて「出資持分なし」になっています。
しかし、厚生労働省による調査では、令和3年時点では、まだまだ「出資持分あり」の医療法人が多く、約7割を占めています。 出資持分ありの医療法人は、その持分を相続することができます。ただし、出資持分は、財産とみなされるため、多額の相続税が課税されます。
出資持分なしの医療法人は、院長に財産権がありません。そのため、相続することはなく、相続税の負担はありません。なお、解散した場合、医療法人の財産は、国へ帰属となります。
国税庁による相続税の税率では、最高税率が55%となっています。 また、相続税は、相続人が、被相続人の死亡を知った(開業医の死亡の日)翌日から10カ月以内(例えば、1月6日に死亡した場合にはその年の11月6日が申告期限)に、被相続人の住所地の所轄税務署に申告・納税する義務があります。
そう考えますと、相続税対策には準備が必要で、事業承継をするかしないかで大きく対策は変わってくるといえます。
事業承継で子どもがいる場合、生前贈与を利用し、承継者である子どもに財産を引き継ぐことです。この場合は、個人でも医療法人(出資持分なし)を設立する場合でも有効です。 以下は、個人もしくは医療法人(出資持分なし)を設立するかで異なります。
個人の場合は、個人向けの「個人版事業承継税制」を活用する方法があります。これは、2028年までの期間限定の納税猶予特例です。個人の開業医で事業承継する子どもには、この制度で大幅に相続税を節税できそうです。
医療法人(出資持分なし)を設立する場合は、前述通り、個人の相続対象から外れた配偶者や親族がMS(メディカルサービス)法人を立ち上げ、院長と配偶者の所得を医療法人とMS法人に分散させることができます。
親族以外の第三者へ事業承継する場合は、外部から候補を探す必要があります。その場合、M&A・事業承継の支援を専門的に行う機関があり、例えば、経済産業省からの委託事業として設立している「事業承継・引継ぎ支援センター」やM&A仲介会社が利用できます。
承継する医師に対して、売却するのか、貸付するのか、取引する内容を決める必要があります。例えば、第三者へ譲渡するメリットは、医院やクリニックの不動産や設備機器の評価により、譲渡金を受け取ることができることです。
医療施設数の推移や傾向をみてみます。 厚生労働省による令和3(2021)年医療施設(動態)調査・病院報告にある“開設者別にみた施設数”によりますと、「病院」の施設数は前年である令和2年(2020)年と比較して0.4%減に対し、「一般診療所」は、1.6%増となっています。 なお、10年前の平成23年(2011)年と比較すると、99,547施設から104,292施設と、4.7%増と増加傾向になっています。
また、一般診療所では、医療法人か個人の割合が高く、8割を超えています。傾向としては、医療法人が増加傾向にあり、個人は減少しています。 平成23年では、個人が約半数の46.4%を占め医療法人は37%でしたが、令和3年では医療法人が43.2%を占め、個人は38.6%と逆転しています。
帝国データバンクによると、2021年の医療機関の休廃業・解散は567件となり、過去最高水準になっています。その内訳としては、診療所が8割超を占めています。 冒頭にあるように、診療所の高齢化により、今後は事業承継が必要な診療所の増加が予想されます。
開業医の相続税対策は、複雑になっています。個人や医療法人(出資持分ある・なし)で異なります。また、事業承継を検討するにも、早めに準備をするに越したことはありません。
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