開業を検討するとき、多くのドクターがまず参考にするのが診療圏調査の数字ではないでしょうか。 「半径◯km圏内に見込み患者が△人」という推計を見て、開業地として有望かどうかを判断する材料にしている方は少なくありません。 ところが、その数字が良好だったにもかかわらず、いざ開院してみると1日の来院数が一桁にとどまる。 首都圏の激戦区では、こうしたケースが決して珍しくないのが実情です。 本記事では、診療圏調査の数字がなぜ実態とずれてしまうのかを整理したうえで、患者ゼロに陥るドクターに共通する落とし穴と、それを避けるための現実的な打ち手を解説します。 これから開業を考えている方は、ぜひ最後まで目を通してみてください。
※本記事の内容は、一般的な傾向や公開情報を基にした参考情報です。実際の集患状況や最適な戦略は、診療科・立地・競合環境などによって異なります。
診療圏調査は開業の出発点として欠かせないツールですが、その数字をそのまま鵜呑みにすると、判断を誤ることがあります。 まずは、なぜ数字と現実のあいだにズレが生まれるのかを押さえておきましょう。
診療圏調査で算出される推計患者数は、エリアの夜間人口(居住人口)に受療率を掛け合わせ、機械的に求めた数字です。 言い換えれば、「その地域に住んでいる人が何人いるか」を起点にした、統計的な推論にすぎません。 この前提は、エリアの性格によって大きく揺らぎます。 たとえば都心部のオフィス街では、夜間人口よりも昼間人口が大きく上回るエリアがあります。 こうした地域を居住人口だけで評価すると、実際の受療行動とはズレた判断につながる可能性があります。 同じ「推計患者数◯人」でも、昼間人口が主体のエリアなのか、居住者が主体のエリアなのかで、集患の前提条件はまったく違ってきます。
さらに見落とされがちなのが、競合の扱い方です。診療圏調査は競合クリニックの「数」こそ数えられますが、評判・設備・専門性までは計算に乗せられません。 強い競合がひしめくエリアでは、机上の見込み患者数が現実には大きく圧縮されることになります。 つまり診療圏調査とは、あくまで「そのエリアの医療需要の上限」を示すツールであって、「自院が実際に獲得できる患者数」を保証してくれるものではないのです。 以下の表もあわせて参考にしてみてください。
都市部では、患者が「自宅近くのクリニック」ではなく「職場の近くや通勤途中のクリニック」を選ぶ傾向が年々強まっています。 居住人口をベースにした診療圏調査では、こうした受療行動を捉えきれません。 その結果、住民が1万人いるエリアに開業しても、その住民は昼間に別の区のクリニックへ通い、逆に自院には他エリアからの通勤者が流入するといった逆転現象が起こります。 加えて、オンライン診療の普及によって、「地理的に最寄りだから」という理由で受診先を選ぶ必然性も薄れてきました。 今の患者は、立地よりもクリニックの情報・評判・専門性を見て受診先を決める傾向が強まっています。 また、首都圏ならではの難しさもあります。 再開発やマンション建設、医療モールの出現スピードが速いため、調査した時点では正確だったデータが、開業のころには陳腐化してしまうことも珍しくありません。 「夜間人口で見込み患者数が出たから問題ない」という考え方そのものが、首都圏では機能しなくなりつつあるといえるでしょう。
数字を信じて開業したのに患者が来ない。 そうした事態に陥るドクターには、いくつか共通した思考のクセが見られます。
診療圏調査の推計患者数を根拠に開業を決断したものの、ふたを開けてみれば1日の来院が一桁、という事態は決して特別なものではありません。 こうした失敗に共通するのは、「数字の良さ=自院への来院」という等号を、無意識のうちに引いてしまっている点です。 市場規模と自院の集患力は、本来まったく別のものといえます。 ところが勤務医時代は「病院・組織の看板」によって患者が集まっていたため、自分の名前だけで患者を呼び込む経験を持たないまま開業を迎えるドクターが多い傾向にあります。 このギャップが、開業後に一気に表面化します。 開業前に現地へ足を運び、競合クリニックの混み具合や評判、設備を自分の目で確かめる。 そうした定性的な調査を省いてしまうケースも目立ちます。 データに任せきりで、自分が戦う土俵の現実を直視していない。 これが、集患につまずくドクターの根本的な共通点だといえます。
「半径500m以内に同じ診療科のクリニックが3軒だから、まだ少ない」。 こうした数だけの判断は危険です。 本当に見るべきは競合の数ではなく、それぞれの集患力と固定患者数だからです。 たとえば開業20年のかかりつけ医が1軒あるだけで、その院長がエリアの患者を囲い込んでいることがあります。 そうなれば、数字上の推計患者数はほとんど取れません。 さらに、駅前や医療モール内といった好立地に後から参入してくる競合は、調査の時点では当然見えていません。 開業後に想定外の競合が現れ、患者を奪われてしまうケースも起こり得るでしょう。 内科系で特徴を打ち出さずに開業すると、患者からは「どのクリニックも同じに見える」状態になりがちです。 そうなると、患者は「なんとなく近いほう」を選ぶだけになってしまいます。 保険診療を中心とするクリニックでは、価格以外の要素で選ばれる理由を明確にすることが重要です。
今や患者は、受診の前にインターネットで検索し、比較し、口コミを確認するのが当たり前になりました。 ホームページがない、あるいは内容が弱いというだけで、検討の段階で選択肢から外されてしまうリスクがあります。 ところが、勤務医としてのキャリアが長いドクターほど、Webマーケティングへの苦手意識を抱きがちです。 「いい医療を提供していれば、自然と患者は来る」という考え方にとどまってしまう、というわけです。 しかし、首都圏の競合密度のなかでは、医療の質はあくまでスタート地点にすぎません。 その質をデジタルで伝え続ける情報発信力こそが、集患の勝敗を分けます。 Googleビジネスプロフィールや口コミ対策、SNS、SEOといった施策は、開業前から計画しておきたいところです。 開業後に慌てて手をつけても、効果が出るまでに数ヶ月から1年ほどかかってしまうためです。 「集患は開業してから考えよう」というスタンスそのものが、首都圏では致命的なスタートダッシュの遅れにつながりかねません。
では、こうした落とし穴を避けるには、具体的に何をすればよいのでしょうか。ここからは、開業準備の段階で取り組める現実的な対策を、3つの視点から整理します。 診療圏調査に「定性調査」を必ず組み合わせる 人口×受療率という定量調査の数字だけに頼らず、実際に候補地へ足を運ぶ定性調査をセットで行うことが欠かせません。 曜日や時間帯を変えて複数回訪れ、競合の混み具合や患者層、評判を自分の目で確かめることで、集患予測の精度は格段に上がります。 現地で確認したいのは、たとえば次のようなポイントです。
・昼間人口と夜間人口の比率、そして流動人口の向き(駅の改札から候補地まで、人の流れがつながっているか)
・競合クリニックの駐車場の稼働率や、待合室の混雑具合
・競合の口コミ件数やGoogleの評価
こうした要素を観察すれば、数字には表れない競合の集患力を、実態に近い形で推測できます。 あわせて、再開発計画や近隣のマンション建設、医療モールの予定地などを自治体の都市計画情報で確認し、3〜5年後の競合環境の変化までシミュレーションしておきたいところです。
「数字は参考、現地は証拠」。
この姿勢で調査を組み立てることが、診療圏調査の限界を超えるための基本戦略になります。
&Clinicでも、候補物件が具体的に絞れてきた段階で診療圏調査を行います。 ただし、診療圏調査は絶対的な判断材料ではありません。 人口や受療率の数字だけでなく、物件の視認性、人の流れ、競合状況、診療科目との相性などを踏まえ、経験豊富なエージェントが多角的にアドバイスすることが重要です。
競合の多い首都圏で集患するには、「何科のクリニックか」という標榜科目だけでは足りません。 「なぜ、この院長の、このクリニックに来るのか」 その理由を、開業前にきちんと言語化しておく必要があります。 たとえば糖尿病やアレルギーといった特定疾患への強みを明示する。 あるいは英語対応・夜間診療・オンライン診療といった利便性で差をつける。こうしてポジションを絞り込むことは、激戦区ほど効いてきます。 院長自身のパーソナルブランディング、専門分野や診療姿勢、こだわりを、患者が共感できる言葉で伝えることも、似たようなクリニックが乱立するなかで「ここに行きたい」という動機を生み出します。 広告費を積むよりも、「選ばれる理由の明確化」のほうが費用対効果が高い場合は少なくありません。 とはいえ、開業後に言語化しようとしても、日々の診療に追われてなかなか手が回らなくなるものです。 開業準備の段階でコンセプトを固め、ホームページや院内掲示に落とし込むところまで、あらかじめスケジュールに組み込んでおきましょう。
開業前からSNSでの情報発信や地域メディアへの掲載、内覧会の告知を重ね、「このエリアに◯月開業」という認知をあらかじめ積み上げておく。 これが、開業直後の集患に直結します。 Googleビジネスプロフィールの登録やホームページのSEO対策、オンライン予約システムの整備も、開業日からきちんと稼働している状態にしておきたいものです。 準備が後手に回ると、効果が出るまでのタイムラグが生まれてしまいます。 とくに首都圏では、医師の評判や口コミが受診先選びに直接影響しかねません。 勤務医時代に紹介元や患者との関係をどれだけ築いてきたかが、開業後の初期集患のスピードを大きく左右するのです。 大切なのは、「開業してから集患施策を考える」のではなく、「開業の6ヶ月前から集患はもう始まっている」という時間軸で計画を立てることです。 診療圏調査の数字は、ゴールではなくスタートラインにすぎません。 その数字が何を意味するのかを読み解き、現場で補強し、自院の強みを患者に届ける戦略があってはじめて、あの「見込み患者数」が現実のものになります。
診療圏調査は開業判断に欠かせないツールですが、それが示すのは「そのエリアの医療需要の上限」であって、「自院が獲得できる患者数」ではありません。 とくに昼間人口や通勤患者の動きが複雑な首都圏では、居住人口ベースの数字だけを頼りにすると、実態とのズレに足をすくわれてしまいます。 患者ゼロに陥るドクターには、「数字が良ければ勝てる」と思い込み、競合を数でしか見ず、Web集患を後回しにしてしまう傾向があります。 逆にいえば、定量調査に定性調査を組み合わせ、「選ばれる理由」を開業前から言語化し、開業のずっと手前から集患の準備を始めることで、こうしたリスクの多くは避けられます。
数字を入り口にしつつ、現場の事実で裏づけ、自院ならではの強みを発信していく。
この3つがそろってはじめて、診療圏調査の数字は意味を持ちます。 これから開業を控えている方は、ぜひ一度、自分の足で候補地を歩いてみてはいかがでしょうか。 とはいえ、診療圏調査の数字を読み解き、現地の人の流れや競合状況、物件条件まで総合的に判断するには、専門的な視点が欠かせません。 &Clinicでは、クリニック開業を検討するドクターに向けて、物件選定から診療圏調査、条件交渉、契約締結までを一貫してサポートしています。
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